―シリーズ西武― 西武と堤義明の“悪業”を暴く <11>

「有価証券虚偽報告」で“墓穴”堀った堤義明

 去る10月15日午後6時、その総師として「西武鉄道グループ」に君臨してきた堤義明は、突然記者会見を開き「グループ企業すべての役職を同日付で辞職する」と表明した。これは「コクド」が大株主である「西武鉄道」の株式について、個人名義1,100人分の大量の株を、実際には「コクド」が保管し、実質的には「コクド」の保有株だった。

 そこで、義明は、「有価証券報告書」に誤った情報を長期間開示していたことに対する引責辞任をしたということ。また、グループ企業の「プリンスホテル」にも100人分の個人名義の「西武鉄道」株を実質的に保有していた、という。“仕置人”としては、―シリーズ西武―<10>まで先代康次郎の“悪業”を暴きながら、康次郎の主要な資産を引き継いだ堤義明の“悪業”に入る矢先だった。

 読売巨人軍のオーナーのナベツネこと渡辺恒雄に続いて、たて続けにライオンズオーナーの堤義明も、日本シリーズが終わった時点で辞任する意向だ。「驕れる人も久しからず、ただ春の夜の夢の如し」という「平家物語」が真っ先に頭に浮かんだ。西武コンツェルンのドン義明の弱々しい記者会見での表情は“堕ちた偶像”そのもので、これまでの傲慢さは影をひそめていた。
 そして、「経営にタッチしていなかった」「何も承知していなかった」、と責任逃れに終始した。

 今年3月、専務取締役らが逮捕された総会屋への“利益供与事件”でも義明は「自分と事件は無関係だが、公共事業を営む会社として起してはいけない事件」と言って「西武鉄道」会長を辞任していたが、「西武鉄道」以外の役職は手離さなかった。逮捕者まで出した“利益供与事件”で「西武鉄道」会長を辞任しただけなのに、今度の「虚偽報告」は内部調査で判明したことを“告白”しての“辞職表明”はいささか不自然で、実は相当切迫した事情に追いつめられているとみる方が自然ではないか。

 確かに「有価証券報告虚偽報告」は証券取引業法違反で、告発されれば国税からも検査が入るだろうし、税が告発すれば、検察の強制捜査も入る。そこで義明は、飼犬が頭を低くしてしっぽを巻くように恭順の意を示したのではないのか。これは推測の域を出ないのだが、「総会屋利益供与事件」の際にガサ入れされ、その時点で個人株主1,200人分のリストが発見された可能性がある。

 総務課長「会長、強制捜査でコクドが所有する当社の持ち株が、制限されている75パーセントをはるかに超えているのが露見しまして」堤会長「なに!バカヤロウ。そういうのを言いくるめるのがオマエの仕事だろう」総務課長「はい、申訳ありません。それで・・・」堤会長「それで何だ、忙しいんだ、早く言ってみろ」総務会長「それが、会長が謙虚に反省して、そのう、コクドを始め、当社やグル―プ会社の役職を全部辞任するというなら、それ以上当方としては追及しない。

 但し、75パーセント以上のコクドが保有する株を、どこかの会社に引き受けてもらうように、というんです」堤会長「・・・・」総務課長「いえ、会長がこのことをご存知だったなんて言ってません。株式課が社員に頼んで・・・・」堤会長「バカヤロウ、これは古くからの相続税対策として株を分散したものなのに、それがウソだと分かっちゃうじゃないか。オマエは何年総務の仕事やってんだ・・・・」こんな場面があったかどうかは別として、義明と清二で、康次郎が没後、当時広島国税局長だった山下元利(故人)という人物の知遇を得て、相続税を最少限に押えるための“節税工作”を依頼した。その結果義明と清二の相続税は数百万円だったという。

 そうした因縁で山下元利に康次郎の選挙地盤を継がせることになったが、困ったことに、当時は佐藤栄作の秘書官を勤め、大蔵省銀行局長で退任した青山俊を康次郎の地盤から出馬させる約束があり、義明と清二は佐藤栄作に"手土産"持参で謝りに行った。

 すると佐藤栄作は「じゃあ西武が青山の面倒を見ろ」と言われ、青山俊を西武の息のかかった滋賀銀行の顧問に据えると同時に、「西武流通グループ」の当時の「西武都市開発」社長に就任させた。康次郎の選挙地盤を継いだ山下元利は衆議院議員として田中角栄の秘蔵っ子として将来を期待されたが早死にしている。

 義明は、1987年頃、米国の有力経済誌『フォーブス』で世界一の富豪と書かれたことがある。同誌が試算した義明の資産総額は、210億ドル(日本円で3兆1,500億円・当時)ということで、9位にランクされていた松下幸之助の資産総額は20億ドル(約3,000億円・当時)で10分の1だった。しかし両者の納税額は、義明が2億4,468万円で松下孝之助が6億9,761万円で義明の約3倍だった。

「コクド」には取材の電話を入れても「うちは公表しないことにしてますので」と断られるため、極めて資料に乏しいが、資本金が1億5000万円で、従業員3,000人では資本金が少なすぎる。10年ほど前の資料によると売上高が1,156億で経営利益が1億7,800万円なのに納めた税金は1,300万円にすぎない。

 当時、時下40兆円という土地を所有しながらである。これは、次から次へと土地を増やしつづけることによって借入金が増え、利益を計上しなくていい税制上の問題がある。義明はかつて「税金を国土が払っていない理由は、利益があがっていないだけのこと。やりたい仕事が山ほどあって事業規模を広げているので、税金を納める余裕がない。従って利益が出ないので払わない」というようなことを新聞のインタビューで答えていた。

 しかし現在では莫大な土地の資産価値が下がり、再編再編で金融機関自体が債権回収に力点を置き、土地があれば金を出すという時代ではなく、本質的に“借金経営”で成り立ってきた“義明経営術”が通用しにくくなっている。

ただ税制上の盲点を突いて巨大グループをここまで引っ張ってきたが、今度の「有価証券虚偽報告」は、株の公正な売買によって投資者を保護するという"証券取引法"に違反し、「西武鉄道」は上場廃止の可能性さえある。ただ、今年9月には「西武鉄道」株の持ち株を「コクド」以下10社で74.9パーセントに修正しているが、10数年間もウソの報告をしてきた義明の責任は免がれることはできないだろう。
 そういえば、先代康次郎の“遺産相続対策”には15年もかけたという。

 中嶋忠三郎の『西武王国』によれば

<堤家の場合、操夫人と子供3人(清二、義明、康弘)のみと仮定すれば、操夫人が半分の50パーセント、嫡出子の清二が25パーセント、庶子の2人が12.5パーセントづつという割合になる。従って義明の遺産相続分は非常にすくなくなってしまうのである。 しかも実際には清二の他に、嫡出子が2人おり、嫡出子でない子は10人近くもいたのである。(中略)いわゆる『遺産相続権利放棄書』を、みんなに書いてもらうことに努めた。小さな子供の場合は、その子の母親に書いてもらった。後日争いを起こそうと思えば、いくらでも起せる問題であった。(中略)“英雄色を好む”とは言うが、堤の子どもの人数を見ただけでも堤の色好みは並大抵のものではなく、ケタ外れであった。私が堤に仕えた20数年間で、この辺りが最も苦労した点であった。>

 著者の中嶋は、康次郎の側近弁護士だっただけにリアルだが、義明も清二も、その淫蕩の血を引き継いでいる。

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